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kikai-sousa:chain

10.チェーン除草機

(1)チェーン除草作業のコツと注意点

 チェーン除草技術は化学合成除草剤のように雑草根絶を目指す技術ではなく、あくまでも雑草低減技術であることを理解する必要があります。諸条件によって雑草低減率は増減しますが、雑草量の半減が本技術の一つの目安になります。従って化学合成除草剤に依存した栽培体系のように雑草皆無の状況を前提とした栽培管理では残存した雑草による影響を大きく受けてしまうため、残存する雑草との共存を前提とした栽培管理を考えなければなりません。具体的には雑草よりも優先的に稲を生育させるための成苗移植技術や、雑草による養分収奪を考慮した施肥調整技術などです。

1)成苗育苗技術

 成苗移植技術の狙いは雑草との競争力向上にあります。代かき後に発芽してくる雑草と対峙する移植苗は身形が大きいほど有利といえます。例え話しですが、隣町のガキ大将とケンカするならば低学年の子よりも高学年の子の方が圧倒的に有利、そんな感覚です。つまり雑草との競争力という点においては、稚苗よりも中苗、中苗よりも成苗、可能であれば成苗よりもポット苗に利があるといえます。チェーン除草のためには成苗あるいはポット苗でなければならない、というわけではありませんが、できるだけ大きな苗が有利であり、雑草対策は容易になる、といえるでしょう。
 従って、手持ちの播種機と育苗箱で育苗することを前提とすれば、葉齢4.5以上(不完全葉を除く)・草丈18 cm程度の成苗育苗を心がけることを推奨します。:?:基本技術編>3.育苗>(3)育苗ポットによる成苗育苗法、または成苗育苗に関する成果情報1)を参照してください。

2)施肥調整技術

 化学合成除草剤に依存した栽培管理では、雑草皆無の状況を想定した施肥設計が基本です。しかし、雑草との共存を前提とした栽培管理では、雑草による養分吸収を考慮した施肥設計にしなければ水稲は養分不足となります。例えば、幼穂形成期頃の雑草残草量が100 g/m2程度の場合(図10-1、図10-2)、基肥窒素の約4割が雑草に収奪されます(図10-3)。この時、コナギなどの水稲よりも草丈が低く光競合の可能性の少ない雑草が優占している状況であれば、雑草に収奪される養分を考慮して増肥することで、ある程度、水稲の生育量を維持できます2)

3)浮稲発生の可能性の確認

 チェーン除草は、移植した苗の上から作業を行うため、移植した苗の活着状況が悪いと浮苗を発生させて欠株となります。例えば移植3~6日後の稲株引抜強度と同日行ったチェーン除草による浮苗発生率の調査によると(図10-4)、最低引抜き強度が30gf以下では浮苗が発生しています(表10-5)。現場の判断法としては、稲株を手で引き抜いた時の抵抗感が、単2乾電池(約50g)をひもで吊した時の抵抗感と同等以下であれば浮苗の懸念があり、単1乾電池(約100g)をひもで吊した時の抵抗感と同等以上であれば浮苗の心配はないと推定できます。
 浮苗発生が懸念される場合は、チェーン除草の開始を数日先送りすべきですが、その間にも雑草の発芽と生育が進むことを考慮して実施日を決める必要があります。また、一部の黒ボク土壌のように土壌の特性として稲株の引抜き抵抗が高くなりにくい条件では、より軽量なチェーン除草機を導入すべきと考えられます。

4)作業時の注意事項

 チェーン除草機の牽引時にヒル釘が均等に田面に接していないと除草効果が低下するため、ヒル釘の取付位置などについては現場状況に合わせて微調整します。例えば人力牽引を前提とする場合は歩行によって足跡周囲の土壌が盛り上がるため、除草機の中央付近に配置するヒル釘は端に配置するヒル釘よりも5~15 mm程度深くねじ込む(田面とヒル釘の間に隙間を作る)などの調整を行います。
 チェーン除草機の接地圧は除草機に重りを載せることで高めることができます。移植した稲株の確実な活着と雑草の生育に合わせてチェーン除草機の接地圧力を高めることで、より効果的な除草ができます。
 刈株や稲わらなどの夾雑物がチェーンに絡まったまま牽引作業を続けると除草効果が低減するほか欠株の原因ともなるため、チェーンに絡まった夾雑物は適宜取り除きます。アオミドロなどの藻類が発生した場合は、アオミドロがチェーンに絡まるだけでなく稲を押し倒すため、除草作業が困難となります。発生の兆候が見られた場合は作業予定を前倒しして実施すべきですが、既に発生箇所の除草作業は中止せざるを得ません。また、塊茎雑草や発芽深度の深い雑草、生育の進んだ雑草に対する除草効果は期待できません。 耕起や代かきは作土深10 cmを目安とします。作土層が浅いと水稲生育の点では不利といわれていますが、チェーン除草の作業性の点では有利になります。作土層が厚いと牽引負荷が高くなるだけでなく、踏み込みに伴って押し上げられた土壌に稲が押し倒される懸念があります。

(2)チェーン除草機で慣行栽培の90%以上の収量を目標とする栽培体系

1)基肥施用量

 有機栽培に転換後1~2年程度の水田でまだ雑草発生量が多くないと予想される場合は、基肥窒素量を慣行栽培+1 kg程度とします。一方、雑草発生量が多いと予想される場合は、基肥窒素量を慣行栽培の2倍程度とします(図10-3)。施用量が多くなる主な理由は雑草による養分収奪を考慮するためですが、有機質肥料は一作期間中に表示窒素含量の7割程度しか無機化(有効化)しないため、有機質肥料の無機化率も考慮する必要があるためです。基肥に使用する有機質肥料としては、実績のある市販の有機質肥料か少なくとも窒素4%以上の発酵鶏糞を推奨します。米ぬかなどの生資材(未発酵・未分解)を養分供給目的で使用することは難易度が高いため、ここでは推奨しません。穂肥は水稲と雑草の生育状況を加味して窒素2~4 kg/10 a(慣行栽培の1.2~2倍)を出穂前20~25日に散布します。

2)除草作業スケジュール

 5月下旬から6月上旬の成苗移植後2~4日目(植代から1週間以内)にチェーン除草機を植条に沿って人力牽引します。その後も5~7日間隔 (新たに発芽してくる雑草が活着する前に)で最高分げつ期頃まで4~5回作業すると出穂期の雑草残存本数と乾物重が半減し、病虫害などがなければ慣行栽培の90%以上の収量が期待できます。諸都合により基肥窒素量が上記基準量よりも少ない条件では、養分欠乏による水稲の生育不良を回避するために雑草残草量を大幅に低減する必要があります。チェーン除草のみでさらに雑草残草量を低減させるためには除草回数の増加が不可欠です。例えば各回の除草作業を片道作業ではなく往復作業にすると効果的に残草量を低減できます(検討中)。
 作業時間の目安は1回30~40分/10 aですので、一作あたり5回の除草とすると合計作業時間は3時間程度になります。また、幼穂形成期以降はヒエなどの稲よりも背丈の高い雑草を手取りするために2時間/10 a程度を見込むことが望ましいでしょう。

3)経費見込み

 消費者の購買意欲に関するアンケート結果などから推察すると、有機栽培米の生産費を慣行栽培の3割増しまでに収めることが一つの目標となります。チェーン除草機の初期投資は2万円程度なので、耐用年数と栽培面積によって異なるものの減価償却費は1000円/10 a程度です。また除草作業時間の総計を5時間/10 a、時間労賃を1500円、とすると除草経費は8500円/10 a程度と見積もることができます。これは化学合成除草剤を使用した場合よりもやや高い程度です。一方、成苗育苗では育苗枚数が約2倍となることから原材料費も約2倍と見込まれますが、パイプハウスを必要としないためある程度経費は相殺されるはずです。また、有機質肥料経費は、発酵鶏糞を使用する場合は化学肥料よりも安価な場合が多く、高級な有機肥料を使用する場合は化学肥料の1.5倍程度と見込まれます。目標収量は慣行栽培の9割程度を想定していることを加味すると、玄米60kg当たりの生産費は慣行栽培の3割増し程度と想定されます。

<引用文献>
1) 新潟県農業総合研究所 2013. 苗箱を用いたコシヒカリ有機成苗育苗における肥培管理技術.平成25年度新潟県成果情報、http://www.ari.pref.niigata.jp/nourinsui/seika_index.html (Web文書)
2) 新潟県農業総合研究所 2013. 雑草共存環境におけるコシヒカリ有機栽培に必要な基肥窒素施肥量.平成25年度新潟県成果情報、http://www.ari.pref.niigata.jp/nourinsui/seika_index.html (Web文書)\\ 

kikai-sousa/chain.txt · 最終更新: 2015/03/12 (Thu) 11:24 by juten