水稲有機栽培では、移植直後から深水管理を行う必要があることや雑草との競合が大きいことから、葉令の進んだ充実した苗を植え付けることが重要となります。中苗では葉令3.5葉、草丈15㎝以上、成苗では葉令4.5葉、草丈20㎝程度を目標としましょう。
有機栽培では化学農薬による防除ができないため、種子伝染性病害に罹病していない種子を用いることが慣行栽培より重要となります。このため、自家採種、購入種子を問わず選種は必ず行います。塩水選による選種を基本とし、塩水の比重はうるちが1.13以上、もちが1.10以上で行います。比重1.13に必要な食塩の量は水10リットルあたり2.1kg、比重1.10に必要な食塩の量は水10リットルあたり1.6kgになります。塩水選を行う手間が無い場合には粒厚選(篩目2.3 mm以上を推奨)により選種を行います。
温湯種子消毒は温熱を利用した物理的防除法で、適切に行なえば高い防除効果が得られます。保温機能の付いた温湯種子消毒機が開発されており、60℃10分の温湯浸漬処理を行なうことにより、いもち病、ばか苗病、籾枯細菌病、苗立枯細菌病、イネシンガレセンチュウに有効であることが確認され、全国的に普及しています。その一方、不適切な使用で防除効果不足や発芽不良といった問題点も指摘されています。そのため、導入に際しては、以下の点に注意することが必要です。
(a)ぼかし肥料で作る自作培土
菜種油粕、米ぬか、魚粕などを混合・発酵させたぼかし肥料と無肥料の土と混合して安価な育苗培土ができます。ぼかし肥料の作製は播種1ヶ月前から行い、保温や切り返しなどの管理が必要です(原材料例:米糠40%、菜種油粕30%、魚粕30%)。ぼかし肥料は育苗箱あたり窒素3g程度とし、ぼかし肥料と土との混合は白カビ防止のため播種前日~当日に行います。また、ぼかし肥料のphが高いため、pH未調整のピートモスと培土を容積比で7対3を目安に十分混合します。使用する土は有機栽培圃場や過去3年以上化学農薬等の使用・飛来がない山土などを用います。
(b)菜種油粕で作る自作培土
菜種油粕は、有機質肥料として肥効が高いことから、無肥料の土と混合し培養することで簡易で安価な育苗培土ができます。培土の作製は播種の1~2ヶ月前に行います。土1 kg当たり菜種油粕25 g(箱当たりの窒素成分量で4 gに相当)を目安にします。土のpHを5~5.5程度までピートモス等で調製します。混合する際に、軽く握って固まる程度に加水します。混合後は乾燥しないよう容器に入れて保管します。床土入れは白カビが発生し易いため播種当日に行います。播種時に床土の表面に白カビが発生した場合、培土の吸水が妨げられます。出芽から緑化時にも表面に白カビが発生しますが、苗の出芽にはほどんど影響なく、かん水やプール育苗により消失します。育苗初期はやや葉色は淡いのですが、育苗後半には葉色が濃くなります。
(c)市販の有機質肥料や発酵鶏糞を用いた自作培土
市販されている有機質肥料や発酵鶏糞と無肥料の土と混合して安価な育苗培土ができます。箱あたり窒素成分量は2.5g程度とします。発酵鶏糞を用いる場合、窒素含有量4 %程度の発酵鶏糞を用います。無肥料培土と有機質肥料や発酵鶏糞との混和は、白カビが発生しやすいため極力播種当日に、床土入れは播種当日に行います。
(d)市販の有機栽培用培土
市販の有機栽培用培土を用いる場合、資材によって肥効が異なるため、資材の特性の把握に努めます。また、箱当たりの培土の使用量が少ないと肥料切れが早まるため、規定量を用います。なお、資材によっては床土入れが早いと白カビの発生が懸念されるので、床土入れは播種当日に行うことを推奨します。
有機栽培では抑草のため移植直後から深水管理することが必要なため、中苗以上の充実した活着の良い苗が必要とされます。播種量は1箱当たり乾籾70 g程度(吸水籾で80~100g)とします。すじ播きのできる播種機であれば、すじ播きにすることで少ない播種量でも移植時の欠株を少なくすることができます。育苗日数は播種量が減るほど長くなり、30日~40日程度です。10 a当たりに必要な箱数は株間18 cmで移植する場合は約30箱が必要です。床土と覆土の量は、1箱当たり約3.5~4.0 L準備します。
有機栽培では病害を予防するため慣行栽培以上に温度管理を徹底する必要があります。出芽は28℃以下とし、本葉第1葉展開期までは日中25℃、夜間10~15℃、本葉第1葉展開期以降は日中20℃、夜間10~15℃を目安に温度管理します。
中苗以上の苗づくりが必要な有機栽培では、育苗期間中に養分不足による葉色の低下や生育の停滞がおこることがあります。これらの苗には、ぼかし肥料、市販の有機質肥料(有機アグレット666特号など)や有機液肥を追肥すると効果があります。葉色の低下がみられたら、箱当たり窒素成分1~1.5 gを目安に追肥します。ぼかし肥料の肥効は速効性で、有機アグレット666特号の肥効は持続性です。ぼかし肥料や有機質肥料は水に浮きやすいので、プール育苗の場合は追肥ムラを少なくするため、追肥時はプールの水位を下げます。苗が黄色くなってから追肥しても回復は困難なので、早めの追肥を心がけましょう。
ポット成苗とは、専用のポット育苗箱を使って葉齢4.5葉(草丈約20㎝)以上に育苗した苗のことです(図3-6)。1株1株が充実した土付き苗であるため、植え傷みが少なく田植後速やかに活着するのが特徴です。また深水管理でも良好な生育ができる育苗方法です。なお、ポット成苗を移植するためには、専用の田植機が必要です。
(a)種籾の準備
播種量が少ないため発芽不良は田植時の欠株に結び付きます。そのため、使用する種籾は塩水選を行い、発芽が揃うように2 mm程度出芽したものを播種します。
(b)播種作業
播種作業は専用のポット播種機と専用の有機育苗培土を使用し、1ポットに2~3粒播種を行います。種子量は、乾籾40 g/苗箱、培土の使用量は2.0 L/苗箱です。
(c)苗代の準備
ポット育苗箱での育苗は、448個あるポットの苗を均一に育苗することが重要であり、そのためには、育苗箱と苗床をしっかり密着させることが重要です。育苗場所は、排水の便利な場所を選び、苗床は均平にした後踏み板を使い育苗箱と苗床をしっかり密着させます。また、育苗箱の底から苗床へ根が伸びるので、苗取りを楽にするために専用の根切りネットを使用します。
水稲有機栽培の育苗では、育苗期間の病害防除、培土の肥効発現、水管理省力化のためプール育苗が適します。プール育苗は、苗床に遮光性のビニールなどで湛水槽を作り、そこに育苗箱を設置して行う育苗方法です。この育苗法により、育苗期に発生するもみ枯細菌病および苗立枯細菌病の発病抑制が可能です。一方で、一旦病害が発生すると、プールの水を介してプール内すべての箱に感染する恐れがあります。このため、種子消毒や育苗温度管理などの病害対策を十分に行う必要があります。
発病を抑制するためには、入水開始時期と常時湛水がポイントです1)。1回目の入水開始時期は、緑化終了後とし、水位を育苗箱の培土表面より下の位置にします。1回目の入水開始時期が遅れると発病抑制の効果が劣ります。一方で早すぎたり、水深が深く苗が水没すると生育不良の原因となるので注意します。湛水深は苗の生育に応じてあげ、育苗箱の縁より1~2㎝上の水深に管理します。1.5葉期以降は水位が育苗箱の縁を下回ったらその都度入水します。以下にパイプハウスにおけるプール育苗の主な作業と留意事項を示します(表3-10)。
温暖地や暖かい時期にハウス内で育苗を行うと軟弱で徒長した苗になりやすいため、屋外での育苗が最適です。
屋外でのプール育苗法は、概ねパイプハウスでの育苗法(表3-10)と同様ですが、以下の点に注意してください。
プール育苗と同様に湛水状態で行う水田内での育苗が可能です。水田での育苗のメリットは水管理を省力化でき、プールを設置する必要がない点です。使用する水田は水の便が良く、苗の運搬や見回りに便利な農道沿いのほ場を選びます。苗を搬入するまでの準備として、代かきを行い、高低差がないように均平にします。育苗箱を水田に出す時期は、緑化期と播種直後の2通りがあります。また、水田に移した後、根を土壌に張らせる方法と張らせない方法があります。
ここでは、緑化期に水田に移し、根を土壌に張らせない方法を紹介します。育苗箱は、穴の少ない稚苗用育苗箱または根止め用の敷き紙を用います。播種から緑化期までの管理は、ビニールハウスで通常の育苗と同様に行います。出芽が揃い1葉期頃になったら、水田へ運びビニールを敷いて並べます(図3-15、図3-16)。水位は育苗箱の縁より1 cm程度高く保ちます。追肥や注意点などはプール育苗に準じます。
<引用文献>
1)岩手県農研センター、宮城県古川農試 1996. プール育苗のイネもみ枯細菌病苗腐敗症およびイネ苗立枯細菌病の発生に対する影響. 東北農業研究成果情報 (Web文書、http://www.naro.affrc.go.jp/org/tarc/seika/jyouhou/H08/tnaes96028.html、2014年1月29日参照)
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