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kihon:1

1.水稲の有機栽培をはじめるにあたってのチェックポイント

(1)圃場の選び方

 1)圃場の選び方

  1. 有機栽培を行う圃場は、畦畔などで慣行栽培圃場と明確に区別されている必要があります。また、慣行栽培圃場で使用した農薬や化学肥料の成分を含む水が流入しないよう注意します。例えば、①慣行栽培圃場が隣接している場合にはあぜを高くし、あぜ塗を毎年行う、②降雨時に排水路から水が逆流しないよう水路の清掃に努める(逆流がおこりやすい圃場は選択しない)などの対策を行います。
  2. 周囲圃場の生産者に有機栽培を行うことを連絡し、農薬などが飛散しないよう要請します。周囲圃場の生産者と良好な関係を築くことが重要です。
  3. 深水管理ができ、減水深ができるだけ少ない圃場を選びます。最大水深は15 cm 以上となる圃場が理想ですが、少なくとも10 cm 程度の水深が幼穂形成期(中干し時期)頃まで常時確保されることが条件です(図1-1)。
  4. 慣行の栽培ごよみで中干し期や登熟後期に用水供給が制限される地域では、有機栽培で必要な時期に用水を確保しにくい状況が想定されるため、用水管理者と事前に打ち合わせを行う必要があります。
  5. 病害虫の常発圃場やクログワイやオモダカなどの多年生雑草が多く発生する圃場は、有機栽培に適しません(図1-2)。
  6. 高精度水田用除草機高能率水田用除草機による除草作業を行う圃場は、長方形で面積が広く、比較的耕盤が浅い圃場が適しています。田植機の沈みこみが大きい湿田などは適しません。

     

 2)圃場条件の把握と資材等の確認

  1. 有機栽培開始前に土壌診断を行い、圃場の pH や養分状態を把握してください。
  2. 圃場に投入する予定の資材をすべてリストアップし、有機栽培で使用できるものかどうか確認してください(有機JAS認定機関で確認が可能です)。
  3. 各作業を記録できるよう記帳簿やパソコンソフトなどを準備してください。圃場ごとに作業日、作業者名と内容、使用した機械名、使用した資材名と使用量などを記録する必要があります。これらの記録は、有機JAS認証を申請する際には不可欠ですし、申請しない場合でも、栽培管理やトレーサビリティの向上に役立ちます。

(2)品種、栽培時期の選び方

 1)品種の選び方

 有機JAS法では、圃場に使用する種子は、有機栽培で生産されたものを使用することが原則です。しかし、現状では有機栽培で生産された種子は流通量が少なく入手が困難なため、有機栽培を新たに始める場合や種子更新が必要な場合には、市販されている無消毒種子を利用することが認められています。各県の奨励品種を利用することにより、種子が容易に入手可能です。有機栽培に適した品種の特性としては、以下の点があげられます。

  1. いもち病や縞葉枯病など病害の発生が懸念される地域では、対象病害の抵抗性を有している品種を選択してください。
  2. 有機栽培で使用される有機質資材(肥料や堆肥)は、含有する成分や気象条件等により肥効が変動します。このため、生育が旺盛となり倒伏しやすくなる場合もあるので、耐倒伏性の強い品種を選択することも有効です。
  3. 遅植えする場合には、極早生品種の選択は避けてください(初期生育量が十分に確保できないため)。

 2)栽培時期の選び方

 (a)慣行栽培よりやや遅い時期に移植
 選択した品種の移植および栽培適期を慣行栽培の「栽培ごよみ」などで確認します。有機栽培では、慣行栽培に比べてやや遅めに移植し栽培を行う場合が多いですが、その場合でも栽培適期内に移植することが茎数や収量を確保する上で重要です。慣行栽培より移植を遅らせることは、以下の点で有効です。

  1. 水稲の初期生育が早まるため雑草との競合に有利に働き抑草効果が向上します。遅植えした方が米ぬかなど有機物散布による抑草効果が高まることも報告されています。                :?:5.雑草の抑制技術>(1)の2)参照
  2. 抑草対策としての複数回代かきを行う期間が確保できます。
  3. 野外でプール育苗を行う期間が確保できます。
  4. イネミズゾウムシやイネドロオイムシの被害を軽減できる場合があります。

 (b)遅植えが適さない場合   
 一方で、イネツトムシ(イチモンジセセリの幼虫)やイネアオムシ(フタオビコヤガの幼虫)の多発(図1-3)が懸念される地域では、遅植えにより被害が大きくなることがあります。早期(早生品種の慣行栽培と同じ移植時期頃)に移植することで、葉食害を軽減することが可能です。

kihon/1.txt · 最終更新: 2020/02/12 (Wed) 14:15 by juten