土づくりは、水稲の根が良く伸長するように土壌環境を整え、それによって作物の生産力を維持・向上させることが目的です。土づくりの方法は、主に①堆肥等有機物の施用、②土壌改良資材の施用、③緑肥作物の活用の3点です。
図2-1は、慣行栽培圃場において堆肥の投入を24年間連続実施した水田と化学肥料のみを施用していた水田で窒素施肥量と収量を比較した結果です。稲わら堆肥2 t/10 aと土壌改良材資材を連用した場合、精玄米重600 kg/10 aを生産するのに必要な施肥窒素量は化学肥料のみを施用していた水田の半分以下となっています。このように、土づくりによって施肥量を減らすことが可能であり、有機栽培においても土づくりは最初に実施しなければならない作業です。それにはまず土壌診断を行い、その結果に基づく土づくりを行うことが必要です。
有機栽培での堆肥等有機物の施用による土づくりは、その圃場で生産された農産物の残さ(稲わら、稲わら堆肥)や地域の循環資源である家畜ふん堆肥の施用が基本です。
地力維持効果は比較的大きいですが、その効果は入水時までの稲わらの分解・腐熟の程度によって大きく異なり、未分解のままだと還元障害や窒素飢餓により水稲生育に悪影響を及ぼします。稲わらの施用量は、乾田では全量(600~700 kg/10 a)すき込みが可能です。一方、半湿田では半量(300~400 kg/10 a)、湿田では全量の稲わらを圃場外に持ち出し、堆肥化した後に還元しましょう。稲わらの分解・腐熟には、窒素を施用することが重要です。米ぬか等分解を促進する資材とともに稲刈り後なるべく早い時期に土中にすき込みます。
1 t/10 a程度の施用で地力維持効果は稲わらとほぼ同程度です。堆肥の腐熟程度や添加する資材の違いによって肥効が異なるので注意します。
家畜ふん堆肥は、稲わらや稲わら堆肥に比べ、窒素・リン酸・カリに富むことから、地力増進効果の他、化学肥料代替効果が期待できます。リン酸やカリは、植物に利用されやすい状態で堆肥中に存在するため、リン酸では堆肥中の50~70%、カリでは90%の肥効が施用当年中に期待できます。
一般に地力維持効果は牛ふん堆肥で大きく発酵鶏ふんで小さくなり、化学肥料代替効果は発酵鶏ふんや豚ふん堆肥で高く牛ふん堆肥で小さくなります。窒素肥料代替効果は、堆肥の原料、腐熟の程度などによって大きく異なります。牛ふん堆肥で堆肥中の窒素が施用当年中に有効化する割合は10~30%程度、豚ふん堆肥で約30%、鶏ふんで30~60%程度とされます。堆肥中の窒素の肥料代替効果を把握する方法として、堆肥の成分分析を行い全窒素含量から堆肥中の窒素の有効化率を算出する方法があります(表2-2)。
窒素肥料代替効果は施用する時期によっても異なりますので、使用する堆肥の特性をよく把握して使用しましょう。また、未熟な堆肥を施用すると栽培期間中に還元障害や窒素の窒素飢餓が発生する恐れがあります。特にオガクズ混合堆肥では十分な熟成期間が必要となります。
堆肥などの有機物は、施用した年に全ての養分が無機化し水稲に利用されることはなく、翌年以降も肥効が継続して現れます。したがって、連用が進めばそれだけ過年度に施用された有機物からの窒素供給量が多くなり、同じ施肥設計で長期間継続すると倒伏やいもち病の発生を招くこととなりますので地力の向上に応じて施肥量を適宜削減していくことが必要となります。
水田には多量のかんがい水が使われるため、かんがいを経由して供給される養分も多く、特にカルシウムやケイ酸が多量に供給され、カリやマグネシウムも供給されます。これらの成分は水系によってその濃度は異なります。土壌分析を活用し不足する成分を補います。稲わらや籾殻のケイ酸含有率はそれぞれ約10%、約20%であり、特に水稲は一作で100 kg/10 aものケイ酸を吸収することから、水系のケイ酸濃度が低い場合、ケイ酸を多く含む稲わらのすき込み、稲わらや籾殻を原料とした堆肥あるいはケイカルなどのケイ酸質資材 (有機JASに適合したもの) の施用が有効です。
「農用地における土壌中の重金属等の蓄積防止に係る管理基準」では、土壌中の亜鉛濃度が120 ppmを超えないこととしています。亜鉛含量の高い堆肥を多量に長期間連用することは避けましょう。
有機栽培では水管理が最も重要であり、入水後、圃場内の水位にばらつきがでないよう準備をする必要があります。特に、移植直後に土壌表面が露出していると、多くの雑草が発生、定着し、機械除草などの効果が低くなってしまいます。このため、数年に1回はレーザーレベラーにより、圃場の均平作業を行うことをお勧めします。レベラーによる作業で、土壌表面だけでなく耕盤の凹凸も少なくなり、機械除草作業がしやすい圃場となります。また、畦畔からの漏水を防ぎ深水管理を行うために、あぜ塗り機などにより高い畦畔(15cm以上が目標)を造成します。あぜ塗りは、降雨のあとなど土壌に一定の水分がある状態で実施してください。
適切な肥培管理のために数年に一度は土壌診断を行ってください。土壌のpHや養分の過不足について正確に把握し、不足する養分がある場合には、適正値になるよう有機栽培で使用可能な資材を施用します。堆肥などを投入しすぎると、pHの上昇や養分バランスの悪化などが起こることがあります。慣行栽培に比べて、有機栽培ではpHを下げたり過剰な養分を適正化することが困難な場合もあるので、土壌診断結果を参考にして施用する有機物等の種類や施用量を決めて下さい。
<引用文献>
1)宮城県古川農業試験場 2010. たい肥の主原料と全窒素含量に基づく水田での簡易肥効判断指標. 宮城県普及に移す技術 85:31-35
http://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/69774.pdf
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