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kihon:5

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5.雑草の抑制技術

 この章では有機栽培で利用される雑草の抑制技術を、(1)耕種的抑草技術と(2)機械除草技術にわけて特徴と利用方法を説明します。各技術の特徴を知った上で、現地の状況にあわせて各技術をうまく組み合わせ、効率的な雑草防除を行ってください。

(1)耕種的抑草技術

 1)2回代かき(複数回代かき)

  1. 作業:水稲移植前の代かきを複数回行うことにより雑草を抑制する技術です。各代かきは2週間以上の間隔を空け、代かきと代かきの間は湛水状態を保ち、田面が露出しないよう注意します。
  2. 抑草メカニズム:入水、代かきによって水田雑草を一旦出芽させ、もう一度代かきをすることで出芽した雑草を土中に埋め込んだり、水中に浮かせたりすることで防除します。
  3. 有効な草種、有効でない草種:ノビエには有効ですが、コナギには効果がありません(図5-1、図5-2)。1回目の代かきによって多くの種子が出芽して土中種子数が大きく減る雑草種や、入水後の早い時期に種子が休眠して発芽しなくなる雑草種に高い効果が期待できます。逆に土中種子数の多い雑草種や種子が休眠しにくい雑草種には効果が期待できません。ノビエは前者、コナギは後者の雑草種になります。コナギは土壌のごく表層の種子だけが出芽するため、土中には未発芽種子が残っています。2回目の代かきによって、この土中種子が表層に移動すると新たなコナギの出芽が始まります。このことからコナギには複数回代かきの効果は期待できません。
  4. 作業のコツ:1回目の代かきの後にできるだけ多くの雑草種子を出芽させるような状態を作るのが大切になります。1回目の代かき時には水を多めに代かきを行い、土中の雑草種子を表面に浮かせるようにします。また代かきと代かきの間は湛水状態を保って水尻を止めて田面水の温度を上げ、雑草の出芽を促すようにします。2回目の代かきでは、出芽した雑草を効率良く土中に練り込めるよう、浅水で代かきを行います。2回目の代かき後に練り込まれずに浮いた雑草は、再び活着しないよう代かき後にすくい取るようにします。

   

 2)米ぬか等有機物の散布

  1. 作業:移植後の出来るだけ早い時期に米ぬかやくず大豆、菜種油粕などの有機物を土壌表面に散布して雑草を抑制する技術です。施用量は、利用法(単独の抑草資材か機械除草等と組み合わせるのか、肥料効果を期待するのか等)によって異なりますが、米ぬかであれば50~200 kg/10a、くず大豆であれば米ぬかと混ぜて各50 kg/10a程度、菜種油粕であれば50~100kg/10aが一般的です。
  2. 抑草メカニズム:有機物を土壌表面に散布すると土壌表層が強還元状態になるため、発芽に酸素を必要とする多くの雑草が出芽できなくなります。また、散布後に土壌表層に蓄積する有機酸も雑草抑制に効果があるとされますが、その詳細は今のところ明らかになっていません。
  3. 有効な草種、有効でない草種:発芽に酸素を必要とする水田雑草(アゼナ、タマガヤツリ、キカシグサなど)には高い効果があります。低酸素条件でも発芽する水田雑草(コナギ、ノビエ、イヌホタルイなど)には効果が大きく変動します。コナギに対する効果は、作期が遅いほど効果が安定する傾向があります(図5-3、図5-4)。
  4. 作業のコツ:米ぬかをそのまま使うのは、風で吹き寄せられるなどして作業性が悪いことから、ペレット化あるいは粒状化したものを使用します。くず大豆はそのまま撒く、あるいは軽く破砕して撒くなどします。移植直後の散布でも水稲への悪影響はあまりなく、葉身の褐変なども活着後には回復するため、移植後のできるだけ早い時期に散布するようにします。ただし活着前後にチェーン除草などで茎葉部が土壌表面に倒伏したままにおかれると回復しない場合もあり、機械除草を行う場合は散布量を減らすなどの注意が必要です。散布後は水尻を止めて湛水状態を保ち、掛け流しは避けてください。

   

 3)深水管理

  1. 作業:移植後から湛水を維持し、10~15 cm程度の水深を維持して水稲を栽培します。移植直後は水稲が水没しない5 cm程度の水深とし、水稲の生育にあわせて徐々に水深を深くするようにします。
  2. 抑草メカニズム:水中では酸素の拡散が遅いため、光合成による雑草の生育が緩慢になります。また特にノビエでは、水面上に葉が抽出して十分な酸素が得られないと葉齢進展が極めて遅くなることから、水没した状態が続くと多くの個体が枯死します。
  3. 有効な草種、有効でない草種:ノビエには極めて効果が高く、水没したままの状態に維持されると、ほとんどの個体が枯死します。水田に生えるノビエにはタイヌビエ、イヌビエ、ヒメタイヌビエがありますが、この中ではイヌビエに対する効果が最も高く、5~10 cmの水深を維持することができればほとんどの個体が枯死します。ヒメタイヌビエ、タイヌビエの順に効果が低下しますが、この場合も10~15 cmの水深であれば生育が大きく抑制され、15 cm以上の水深が維持できればほとんどの個体が枯死します(図5-5)。コナギやイヌホタルイなどの水田雑草も深水によって生育が抑制されますが、ノビエの場合のように枯死させるほどの効果はありません。
  4. 作業のコツ:水田を出来るだけ均平にし、代かき後に田面が決して露出することのないようにします。また発生するノビエの葉先に注意して、葉先が水面にでない程度の水深を維持します。中干しまで1ヶ月程度の期間10~15 cmの水深が維持できれば多くのノビエ個体が枯死します。

 4)その他の耕種的抑草技術

 クログワイやオモダカなどの多年生水田雑草に対しては、上記のいずれの耕種的抑草技術もあまり高い効果を示しません。クログワイやオモダカがある場合は、水稲刈り取り後の出来るだけ早い時期に耕起を行うことで、土中の塊茎量を減らすことができます。クログワイの塊茎は乾燥で死滅するため、暗渠などによる乾田化や、耕起によって土中の塊茎を表面に出して乾燥させることが塊茎の死滅に有効となります。オモダカは塊茎の寿命が1~2年と短いため、大豆などとの輪作の効果も期待できます。塊茎から出芽する多年生雑草については、耕種的抑草技術の中に除草剤並の高い防除効果をもつものが有りませんので、その防除には作期中にこまめに手取りに入るなどの作業が重要となります。

(2)機械除草技術

 1)高精度水田用除草機

 (a)高精度水田用除草機の概要
 高精度水田用除草機は、乗用型多目的田植機の機体後部にPTOを介して接続可能な除草装置です(図5-6)。本装置には、高速回転する横軸回転ロータで水稲の条間を除草し、水平左右に揺動するレーキで株間を除草する方式の除草機構(図5-7)が採用されています。現在、乗用型多目的田植機および除草装置は、6条用と8条用が井関農機株式会社、株式会社クボタ、ヤンマー株式会社の3社より販売されています。除草時の作業速度は0.3~0.5 m/s(移植時のスピードの1/2~1/3)が標準的です。10アール当たりの作業時間は6条用が約30分、8条用が約20分で、省力的に除草作業ができることが特徴です。

      

 (b)高精度水田用除草機の導入条件
 高精度水田用除草機は多目的田植機とセットで購入する必要があり、経営面から有機栽培面積がおおむね3 ha以上規模の農家への導入が推奨されます。特に、以下のような条件の圃場を選択してください。

  1. 面積がおおむね10 a以上で定型であること。除草作業の際、機械の旋回によって枕地の水稲が傷みやすいので、縦長の長方形圃場が最も適しています。
  2. 耕盤が比較的浅く地耐力が高いこと。移植時と除草時をあわせて3回程度機械の車輪が同じ位置(轍)を走行するので、これに耐える耕盤を有した圃場が望ましく、機械の沈みこみが大きい湿田などは適しません。
  3. 水管理が可能な圃場を選ぶこと。移植後に土壌表面が露出すると雑草の生育が旺盛になり、引き抜き抵抗が高まって、除草機による除草効果(特に株間)が低下します。10 cm程度の水深が維持できる圃場は必須です。圃場面積が広い場合には、レーザーレベラーで圃場の均平化を図る(図5-8)ことで、除草効果が安定します。
  4. 藻類の発生が著しい圃場は、株間レーキに藻類が絡んで水稲の欠株が増加するので、本機の導入には適しません。

 (c)除草作業

  1. 1回目の除草作業は、移植日から7~10日後(仕上げ代かきから約10日後以内)、2回目は1回目から約10日後に行います。その後、雑草の残存状況をみて必要であれば3回目の除草作業を行います。移植時や除草時に米ぬかなどの有機物を散布することにより、2回の除草作業で機械のみで3回除草した場合と同程度の除草効果が得られます1)
  2. 作業時の水深は3~5 cm程度が適当です。これよりも浅いと車輪への土壌の付着などにより欠株が増加する可能性があります。また、水深が深すぎると水の抵抗により、ロータやレーキの田面への作用が弱まり、十分な除草効果が得られない場合があります。
  3. 除草機の作業速度は、稲の損傷に配慮しながら、0.3~0.5 m/sに設定します。特に、1回目の除草では、速度を落として作業することを推奨します。
  4. 除草作業後は、速やかに深水に戻します。

 (d)除草効果と水稲の収量

  1. 高精度水田用除草機により7~10日間隔で3回除草作業を行った場合、約60%の本数 (条間と株間の平均) の雑草が除去可能です2)
  2. 高精度水田用除草機と他の耕種的な除草技術 (2回代かき、深水管理、米ぬか散布、など) を組み合わせることで、2回の除草作業で高い抑草効果を得ることが可能です (表5-9)。また、回転ブラシやチェーンを装着することで株間の除草効果を高めることが可能です3),4)。  :?:除草機械操作・活用編>9.高精度水田用除草機>(2)の3)を参照
  3. 除草作業における欠株率は、圃場条件や植え付け状況などによって変動しますが、平均で7%程度です (表5-10)。
  4. 本機を利用して有機栽培した水稲の収量は、適正な養分供給があり病害虫の発生等が少なければ、平均すると慣行栽培の90%以上となります (図5-11)。

 (e)問題点・注意事項

  1. 除草機が旋回する枕地部分では欠株が多くなります。枕地で急旋回や頻繁な切り返しを行わなければ、欠株率は25%程度です (図5-12)。また、枕地部分の除草効果は期待できない (手取り除草が必要) ので、枕地は水稲を移植せずに空けておく場合もあります。
  2. 暗渠敷設後間もない圃場では、片方の車輪が暗渠に落ちて車体が傾くことにより著しい欠株が生じることがあります (図5-13)。このような場合は、移植時から後輪に補助車輪を利用することが有効です。

  

 2)チェーン除草機

 (a)チェーン除草機の特徴と用途

  1. 低コストな初期導入除草技術:チェーン除草機の大きな特徴は、他の除草方法に較べて初期導入経費が非常に安価であること、また安価ではあっても手取除草などに較べればはるかに作業効率が高いことにあります。初めて有機栽培に取り組もうとする農家にとって最も手軽に導入できる除草技術として推奨できます。チェーン除草機は金物屋やホームセンターで入手可能な材料を用いて2万円程度で自作できます5)(完成品の販売についても検討中です)。
  2. 簡素な構造と容易な維持管理:6条用の人力牽引型チェーン除草機はきわめて簡素な構造であることから維持管理に特別な配慮は必要ありません (図5-14)。長さ2 mの角棒に長さ13 cmのヒル釘を2.6 cm間隔で77本をジグザグに配置し、ヒル釘の頭部に4環一組のチェーンをワイヤーとオーバルスリーブで接続しています (総重量7 kg)。ヒル釘を用いて軸棒とチェーンを接続することにより、チェーンの接地位置が固定されると共に接地圧を高めることができるため、除草効果を維持しながら軽量化を実現しています。また、軸棒の上に重りを載せることで接地圧を調整できるため、稲の活着度合いと雑草の発生状況に合わせた対応が可能となっています。
  3. 熟練を必要としない技術:チェーン除草作業には特別な技術は不要であり、初めてでも簡単に作業できます。また除草作業による水稲へのダメージは極めて少ないため、移植後 2~3日後から作業を始められます。作業は植条に沿って縦方向に牽引することが基本ですが、移植した苗の上から横方向でも斜め方向でも自由に作業できます。従って、区画整理されていない不定形の水田でも欠株を気にすることなく作業可能です。また、湿田などの軟弱耕盤水田でも、歩行可能であれば作業可能です。  
  4. 栽培規模:人力牽引の場合、作業者1名当たり1haまでが現実的な栽培規模です。実際には雑草発生量や施肥設計によって必要な作業頻度が異なりますので、実施可能な栽培面積にはかなりの幅があります。例えば、10 a当たりの作業時間を休憩込みで1時間と想定すると30 aで3時間、最頻期に3日に1回の作業を想定すると、栽培可能面積は30 a×3枚=90 aとなります (図5-17)。作業者1名当たりの栽培規模が1 ha以上となる場合は、中古田植機などによる牽引によって作業効率を向上させるか、高精度水田用除草機などの高性能機械の導入を推奨します。
  5. 適用条件1:移植から幼穂形成期までの約50日間は水深5~10 cm以上を維持する必要があります。水深が浅いと除草作業時に水稲が泥に埋まる可能性があります。また、田面が露出すると除草作業によって引き抜かれて田面水上を浮遊している幼雑草が再活着する可能性があります。
  6. 適用条件2:土壌表面がチェーンによって容易に攪拌できる程度に柔らかい状態である必要があります。代かき方法に問題がある場合や代かきしてもすぐに締め固まる水田、あるいは砂質水田では十分な除草効果を発揮できない場合があります。

 (b)チェーン除草機の性能
 チェーン除草機の除草能力に過剰な期待はできませんが、多くの場合雑草残草量は半減します (図5-18)。また、移植後の早い時期の除草回数を増やすことによって除草効果を高めることができます。ただし、化学合成除草剤のように雑草根絶を目指す技術ではなくあくまでも雑草低減技術であるため、成苗移植技術や雑草共存環境を前提とした施肥管理技術と組み合わせることが重要です。

 3)水田用除草ロボット(アイガモロボット)

 アイガモロボットは、水田内の稲列をまたぎクローラで走行して、雑草の発生を抑制するロボットです。内蔵のカメラで稲列を検知して、稲を踏まないように条間を自動走行します。

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 4)その他の除草機械

 これまで紹介した高精度水田用除草機、チェーン除草機、アイガモロボット以外の除草機械の概要、特徴等を紹介します。
 (a)乗用型水田用除草機
 除草装置を乗用型の車両に取付けて除草作業を行う水田用除草機が、数社から市販されています。乗用型のため比較的経営規模が大きい生産者の有機栽培に適します。主な特徴および注意点は下記の通りです。

  1. 条間の除草は主にロータで除草します。
  2. 株間の除草機構は、各社で様々な仕様を市販しています。羽輪やレーキなどを採用しているものがあり、自分の圃場条件 (発生雑草など) に適したものを利用する必要があります。
  3. 乗用型車両が水田内を走行することにより、除草装置が水流等で駆動して除草作業を行います。除草装置本体 (ロータ等) の駆動には、エンジン等の動力は使用しません。このため、作業速度を速くしないと水流が起こらず、十分な除草効果が得られない場合があります。
  4. 乗用型車両のミッドシップに除草装置を搭載するものは、除草作業を直視で確認しながら作業することが可能です。

 (b)歩行型水田用 (中耕) 除草機
 多くの企業から様々な歩行型水田用除草機が市販されています。歩行型水田用除草機には、主に除草装置を小型エンジンの動力で駆動して除草作業を行うものと、人力で水田内を押して歩くことにより、除草用のロータを回転させて除草作業を行うものがあります。どちらも作業者が水田を歩行する必要がありますので、大規模な有機栽培には適していません。主な特徴および注意点は下記の通りです。

  1. 条間の除草は、主に回転する爪付条間ロータ等で除草します。
  2. 一部の機種に株間の除草機構を採用した除草機が市販されていますが、多くは株間の除草機構がありません。
  3. 株間の除草機構が無い機種を利用する場合は、米ぬか等の有機物投入など他の抑草技術との併用が必要な場合があります。
  4. 歩行しながら除草作業を行うため、除草状況を確認しながら作業が出来ます。

<引用文献>
1)吉田隆延・水上智道・宮原佳彦・牧野英二・臼井善彦・関口孝司・三浦重典 2010. 乗用型水田除草機と米ぬか散布を組み合わせた水田用複合除草技術の実証試験. 平成21年度生研センター研究報告会:23-31
2)宮原佳彦 2005. 乗用型高精度水田用除草機の開発と実用化. 関東雑草研究会報告16: 11-17
3)月森弘 2013. 水稲有機栽培のための新しい株間除草方式の開発とその効果. 農研機構技術研究会資料「有機栽培技術研究の現状と課題」:33-37
4)安達康弘 2010. 水田用除草機を利用した除草法の改良とその効果. 中国・四国雑草研究会会報第4号:5-9
5)古川勇一郎 2011. 「チェーン除草」農業総覧・病害虫防除・資材編. 第9巻追録第17号

kihon/5.1426124955.txt.gz · 最終更新: 2015/03/12 (Thu) 10:49 by juten