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高精度水田用除草機を利用した有機栽培体系の現地実証事例(B) 

1.実証試験地の概要

<実証試験地> 福島県福島市B氏
<試験年次>  2014年~
<ほ場面積>  28a
<導入した除草機械> 高精度水田用除草機(クボタSL-6K)

 本試験を実施しているB氏は1999年より水稲の無農薬無化学肥料栽培を開始し、翌年には有機JASを取得しています。生産者の経営面積(水稲)は240aでうち212aが有機JAS圃場です。生産者が取り組んでいる除草法は、米ぬかによる抑草やチェーン除草、歩行型動力除草機による機械除草です。残草はノビエ、コナギ、ホタルイ、クログワイ、オモダカが多くなっています。収量は平年360kg/10a前後です。

2.圃場の栽培管理と水稲の生育・収量(2015年)

 品種は福島県の主力品種であるコシヒカリを用いました。作付け圃場はJAS有機水稲の作付けを10年以上行っており、ノビエ、コナギ、ホタルイ、オモダカ、クログワイの発生が多い圃場です。栽培管理の概要は表B-1に示すとおりです。

 播種量は乾籾70g/箱、育苗日数は46日、出芽方法は無加温出芽、栽培管理はハウスプール育苗です。培土は市販のJAS有機対応培土(関東農産株式会社製)を用いました。育苗期間中高温で推移したため、徒長を抑えるためプールの水の入れ替えを実施しました。苗の葉色の低下を防ぐため、バイオノ有機sをN1.5g/箱を育苗期間中3回追肥しました。バイオノ有機sは粒状タイプを用い、散布時はプールの水位を苗箱より下げ、肥料が水を吸い苗箱に定着した後に入水しました。高温や追肥の影響によりやや草丈は長くなりましたが、充実した苗が生産できました(表B-2)。 複数回代かきを行うため、移植17日前に荒しろを行いました。植しろは移植3日前に行いました。田植機は栽植密度を60株/坪、掻き取り幅を3、4本/株に調整しました。使用した育苗箱は28枚/10aです。抑草資材として菜種油粕を移植時に土壌表面に散布しました。散布には側条施肥装置を活用しました(○○p参照)。菜種油粕はペレットに造粒された製品(商品名ナタレット)を用いました。散布量は50kg/10aです。
 機械除草は移植後13日と23日に実施しました。作土の深い地点があることから除草機の後輪に補助車輪を取り付けました。1回目の除草は移植から7日~10日に行うのが理想ですが、雑草の発生が少なかったことから1回目の除草は移植後13日に実施しました。1回目の除草時は株間除草機(ツース)による欠株が多く見られたことから、圃場の2/3でツースを取り外して除草作業を行いました。2回目の除草は株間除草機による欠株は問題ありませんでしたが、作土が深い地点で車輪による稲株の押し倒し、補助車輪による埋め込みが発生し(図B-3)、これを手直しするために、0.7h/10aの労力が必要となりました。2回目の機械除草後の旋回部以外の欠株率は5%でした。ただし、2回目機械除草時に作土の深い地点で発生した車輪による稲の押し倒し、埋め込みは手直しを行っています。旋回部では欠株率が40%と高い結果となりました。
 中干し前まで10㎝以上の深水管理を目標としましたが、水深はやや浅く移植後から中干しまでの平均水深は6.8㎝でした。
 これらの除草体系を実施した結果、クログワイ以外の草種には高い除草効果が認められました。深水管理が十分ではなかったため、ノビエが発生しましたが、手取り除草が必要な程度ではありませんでした。前年にオモダカが多発しましたが、本年は問題無い程度に抑制されました。一方で、クログワイに対する抑草効果が劣り、多発地点では水稲の生育が強く抑制されました(図B-4)。

   

 実証ほの水稲の生育は除草体系の影響により株あたりの茎数の増加は農家慣行より遅れました。7月下旬の生育量は農家慣行JAS有機より多く、菜種油粕を含めた窒素施肥量が多かったこと、雑草の発生が少なかったことが影響したと考えられました。葉色は出穂まで濃く推移しましたが、7月から出穂まで高温で経過したことからいもち病の発生は少なかったです。稈長が長く、倒伏が認められ、成熟期の倒伏程度(0-400)で170でした。収量は実証ほ坪刈りで491kg/10a、全刈りで429kg/10aでした(図B-5、図B-6)。出穂後低温寡少となったことから、青未熟とくず米が多く発生したが、農産物検査は全量1等でした。

   

3.生産コスト・労働時間等(2015年)

 生産コストの内、肥料費、農機具費が占める割合が大きくなりました。肥料費では抑草資材として用いた菜種油粕(ナタレット)、基肥、追肥として用いたバイオノ有機sの比率が高かったです。農機具費では、実証農家の実経営規模2.4haに6条の多目的田植機、高精度水田用除草機を導入したとして計算したため、この費用が大きく過剰投資となりました(表B-7)。
 労働時間については本田における除草時間が1.7h/10aと少なく抑えられました。60kg当たりの費用合計は16658円となり農林水産統計(一部改変)対比で121%でした。

4.生産者の評価と今後の課題

 生産者からは試験した除草体系について労力、除草効果の点から高い評価を得ています。導入しました技術について以下のような評価を得ています。  ・苗の中間追肥に市販の粒状肥料を用いるのは、効果、労力、コストの面からおすすめできる。
 ・菜種油粕の抑草効果は高いようだが、肥料効果もありそうなため、施肥設計に注意が必要である。
 ・ノビエは深水管理で十分抑草できることが分かった。
 ・試験した除草体系の効果は高かった。オモダカは水稲による遮蔽、丁寧な代かき、機械除草により抑制できるようだ。
 ・高齢化にともない乗用の除草機は欲しいところである。
 試験した除草体型について以下の課題が考えられ、本除草体系を導入する際には圃場選定に留意する必要があります。
 ・耕盤の深さが一定でないと欠株が発生しやすい。
 ・クログワイに対しては試験した除草体系の効果が弱い。

<試験に使用した資材など>

・水稲用有機質育苗培土(株式会社関東農産):102kg/10a(苗箱28枚分)
・ナタレット(片倉チッカリン株式会社):50kg/10a(抑草用、移植時)
・バイオノ有機s(大成農材株式会社):42kg/10a(苗追肥用2kg/10a、基肥33kg/10a、追肥7kg/10a)

genchi/f1.1453091806.txt.gz · 最終更新: 2016/01/18 (Mon) 13:36 by sakum**********@****.*********.lg.jp