スクミリンゴガイは-6~-7℃で凍結して死亡しますが、凍結しなくとも10℃以下 の気温であれば徐々に寒さによるダメージを蓄積していきます。気温が低ければ低いほどダメージの蓄積量も大きくなります。本種の低温耐性については0℃で 20~25 日、-3℃で3日、-6℃で24時間以内に死に至るとの報告等1)がありますが、このような極端な低温が続かないような場合でも数カ月にわたる10℃以下の気温によって冬の間に 多くの貝が死にます。これまでの研究で、平年並みの気温であれば、一般的な水田での本種の越冬率は九州で5~10%、奈良県で1%。茨城県では0%(水田では越冬できない)と言われていますが、近年暖冬が増えたことで各地で越冬する 個体の割合が増えているようです。防除マニュアル等で推奨されているように、厳寒期(前)の耕耘によって土中にいる貝を掘り起こして寒風にさらすことで、防除効果を高めることができます。
貝は糖類を特に好むことがわかっています。野菜に引き寄せされるのは糖類のためです。本マニュアルの捕殺の項で紹介しているMix餌(米ぬか:米麹:鯉のエサを当量ずつ混合)は、とても誘引力が高く、かつ、発酵の効果により腐敗しにくい(長持ちする)特徴がありますので、ぜひお試しください。
初発地においては、まずは貝の定着を阻止すること、次いで周辺地域への貝の拡散を防止することが重要となります。 発生が特定の水田や水路の一部など、極めて限られた地点に限定されている状況の場合は、田畑輪換のほか、貝・卵塊の除去、水路の場合は泥上げが有効です。 貝が定着している(根絶が困難な)場合は、水稲への被害を防ぐことを目的とした防除を実施してください。 本マニュアルにあるように、一般的には農薬散布や冬期の耕うん、浅水管理などが効果的な防除対策ですが、地域として取り組めるのであれば、田畑輪換も有効です。田畑輪換は、地域全体で実施するのは難しい場合が多い技術ですが、貝の生息数を減らす効果は大きい方法ですので、可能であれば積極的に実施ください。
移植後3週間を過ぎれば株ごと食害されることはありませんが、分げつ初期の葉を食害され、茎数が増えなくなることがあります。また、中干し後には食害は起きませんが、個体数が多いと越冬数が増え、翌年の被害につながります。本田期の捕殺、冬期の耕うんなどを行って貝の密度を減らし、翌年の被害がでにくいようにしてください。
いずれも、食べさせることで効果がある剤です。薬剤施用後は湛水条件にし、スクミリンゴガイに餌を食べさせることが重要です。
貝の活動が活発になる17℃以上の水温のときに散布します。5月上旬以降に移植した水田であれば、移植後すぐに散布します。引き続き個体数が多い場合は、移植4週間後(分げつ初期)にも散布するとよいです。
発生量を大幅に減少させることができますが、湿った土の中であれば1年間以上生きることができるため、根絶はできません。また、稲作再開後は、周辺の水田や水路からの侵入に注意してください。
産み付けられてから間もない濃いピンク色の卵は水中に落とすと孵化できません。水路の壁などから水中に削り落とすだけで効果があります。時間が経って黒~白っぽくなっている卵はふ化直前なので、水中に落としてもふ化してしまいます。押しつぶす必要があります。
泥上げによる防除を行う場合、陸に上げた後に寒さにさらすことで効果が高くなりますが、気温が高いと寒さで死ぬ効果は期待できません。春に実施する場合は、泥を広げ、念入りに踏みつぶすとよいです。
メタン発生抑制以外にも、ヒメトビウンカの防除などの観点から、秋耕の実施を呼び掛ける場合がありますが、スクミリンゴガイ防除を優先する場合には、なるべく遅い時期に耕耘するほうがよいです。
可能な範囲で慣行より遅く実施してください。加えて、防除効果を高めるため、回転数をPTO2速にして実施してください。
スクミリンゴガイが多発する状況では、農薬散布のみでは防除できない場合があります。複数の防除方法を組み合わせて体系的に行うことで防除効果が高くなります。また、スクミリンゴガイは同一水系を移動するため、地域一体で体系防除に取り組むことが重要です。
メタアルデヒド粒剤は水中で徐々に崩壊して防除効果が低下します。散布7日後以降は、貝の発生状況とイネの生育の進展状況に応じて2回目の散布を行うか、浅水で管理するかを判断してください。
貝は長期間の乾燥に弱いため夏期の畑転換で多くの貝が死亡しますが、夏期でもダイズ圃場の水たまりで活動する貝が観察されるなど、根絶することはできません。被害の大きなほ場では、ムギの播種前やダイズの収穫後に、耕うんによる越冬貝の防除を行ってください。また、畑作から稲作に戻す際は、水路に生息する個体が水田に流入しないように、水路からの侵入防止対策として、取水口・排水口に侵入防止ネットや金網を設置してください。
石灰窒素20~30kg/10a施用は窒素4~6kg/10aに相当します。窒素成分を多く含むため、元肥の量を減らすなどの調整を行ってください。窒素過多で倒伏しやすい品種では、特に注意が必要です。
スクミリンゴガイは柔らかい茎葉を好むため、軟弱な苗では被害が発生しやすいと考えられます。貝の密度が高いほ場では、浅水管理などの耕種的防除、耕うんによる貝の破壊などの物理的防除、農薬を用いた化学的防除などを地域の特徴に応じて適宜組み合わせて実施してください。
通常の気温や水管理の状態では、移植した苗は2~3週間程度でスクミリンゴガイの加害を受けない程度にまで生育します。ただし、移植後の長期間の低温や極端な浅水管理などにより苗の活着の遅れや葉齢の進展が遅れが生じると、1か月以上経ても貝が加害できるような軟弱な株になってしまう可能性があります。苗の生育状況に遅れが懸念される場合は、浅水管理を終了する前にイネの生育状況を確認してください。
水路のすぐ脇に上げると、残土が崩れて貝が生きたまま水路に戻るおそれがあります。泥を上げたら、なるべく水路から離れた場所で、貝をつぶすように努めてください。その際に未発生の圃場や水路へ貝が拡散しないように注意してください。
土壌中や稲わらの下は暖かく、翌年まで生きている貝も多くいます。厳寒期に耕うんを行って土壌から貝を掘り起こして寒風にさらすことで殺貝効果が高まります。多発ほ場では積極的に実施してください。
冬期のロータリー耕うんは貝を物理的に破砕する効果があります。作土の土塊を反転するだけのプラウ耕は貝を破砕する効果は期待できないため、ロータリー耕うんが理想的です。