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kihon:6 [2016/03/11 (Fri) 13:12]
juten
kihon:6 [2020/02/14 (Fri) 17:13] (現在)
juten [(2)主要害虫の抑制技術]
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 === 1)いもち病 === === 1)いもち病 ===
  
-①圃場および周辺環境に伝染源を持ち込まない・作らない\\+ ①圃場および周辺環境に伝染源を持ち込まない・作らない\\
 {{ :kihon:図6-1.jpg?360|}} {{ :kihon:図6-1.jpg?360|}}
  いもち病菌は糸状菌(カビ)の一種です(図6-1)。罹病した稲わら、籾殻などで越冬して翌シーズンの伝染源となりますので、圃場や催芽・育苗施設の周辺にこうした資材を不用意に保管・放置しないことが重要です。また、感染した種籾による種子伝染もしますので、健全な種籾を選び、さらに温湯処理等による種子消毒を行って、種子伝染する他の病害とともに、種籾からの持ち込みを防ぎます。JAS 有機に適合した種子消毒の方法・資材等については北海道農業研究センターの研究成果<sup>5)</sup>が参考になります。農薬を使用しない種子消毒では、薬剤の残効による病原菌抑制が期待できず、消毒後の種子は各種病原菌による再汚染に対して無防備です。作業場所や使用機材、乾燥・保存時の衛生管理には特に気を遣いましょう。本田のすみなどに取り置きした補植用の苗は、植物体が貧弱・多湿になりがちなのでいもち病に感染しやすく、圃場全体の伝染源になりやすいので、早期に使用・廃棄します。\\  いもち病菌は糸状菌(カビ)の一種です(図6-1)。罹病した稲わら、籾殻などで越冬して翌シーズンの伝染源となりますので、圃場や催芽・育苗施設の周辺にこうした資材を不用意に保管・放置しないことが重要です。また、感染した種籾による種子伝染もしますので、健全な種籾を選び、さらに温湯処理等による種子消毒を行って、種子伝染する他の病害とともに、種籾からの持ち込みを防ぎます。JAS 有機に適合した種子消毒の方法・資材等については北海道農業研究センターの研究成果<sup>5)</sup>が参考になります。農薬を使用しない種子消毒では、薬剤の残効による病原菌抑制が期待できず、消毒後の種子は各種病原菌による再汚染に対して無防備です。作業場所や使用機材、乾燥・保存時の衛生管理には特に気を遣いましょう。本田のすみなどに取り置きした補植用の苗は、植物体が貧弱・多湿になりがちなのでいもち病に感染しやすく、圃場全体の伝染源になりやすいので、早期に使用・廃棄します。\\
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 === 5)稲こうじ病 === === 5)稲こうじ病 ===
  穂に病原菌の厚膜胞子と菌糸からなる黒い団子のような構造(病粒)が形成され、小穂が破壊される病害で、多発するとかなりの減収に  穂に病原菌の厚膜胞子と菌糸からなる黒い団子のような構造(病粒)が形成され、小穂が破壊される病害で、多発するとかなりの減収に
-なります(図6-4)。病粒は耐久生存体として水田土壌中で越冬し、翌年以降の伝染源となります。伝染様式として、従来、病粒上に形成される胞子・菌核による小穂への感染が推定されていましたが<sup>3)</sup>、近年の研究から、土壌中の病原菌の根や茎への感染(土壌伝染)の重要性が指摘されています<sup>26)</sup>。防除に利用可能なJAS有機適合の農薬として、Zボルドー粉剤DLの登録があり<sup>1)</sup>、高い防除効果が知られていますが、薬害が出やすいので注意が必要です。\\+なります(図6-4)。病粒は耐久生存体として水田土壌中で越冬し、翌年以降の伝染源となります。伝染様式として、従来、病粒上に形成される胞子・菌核による小穂への感染が推定されていましたが<sup>3)</sup>、近年の研究から、土壌中の病原菌の根や茎への感染(土壌伝染)の重要性が指摘されています<sup>24)</sup>。防除に利用可能なJAS有機適合の農薬として、Zボルドー粉剤DLの登録があり<sup>1)</sup>、高い防除効果が知られていますが、薬害が出やすいので注意が必要です。\\
 {{ :kihon:図6-4.jpg?280 |}} {{ :kihon:図6-4.jpg?280 |}}
  
行 71: 行 71:
  寒冷地や山間部を中心に発生します。水田周辺の雑草地や雑木林の落葉下などで越冬し、越冬成虫が移植後の水田に侵入してきます。幼虫による葉への食害が主体であり、通常6月中下旬が最盛期となります。早植えにより越冬成虫の侵入機会が増加するため、移植時期を遅らせることが被害を未然に防ぐためには重要です。また、水稲が窒素過剰になると本種による被害が大きくなるため、多肥栽培を避けて健全な稲体づくりをすることを心掛けて下さい。コイの放流により本種の密度が低下する可能性があることも報告されています。圃場外での対策としては、越冬場所である雑草地などの適切な環境整備により、生息地での密度を減少させることが有効です。  寒冷地や山間部を中心に発生します。水田周辺の雑草地や雑木林の落葉下などで越冬し、越冬成虫が移植後の水田に侵入してきます。幼虫による葉への食害が主体であり、通常6月中下旬が最盛期となります。早植えにより越冬成虫の侵入機会が増加するため、移植時期を遅らせることが被害を未然に防ぐためには重要です。また、水稲が窒素過剰になると本種による被害が大きくなるため、多肥栽培を避けて健全な稲体づくりをすることを心掛けて下さい。コイの放流により本種の密度が低下する可能性があることも報告されています。圃場外での対策としては、越冬場所である雑草地などの適切な環境整備により、生息地での密度を減少させることが有効です。
  
-=== 4)コブノメイガ ===+=== 4)イネツトムシ(イチモンジセセリ) === 
 + ①イネツトムシの発生状況\\ 
 + イネツトムシの幼虫は、数枚のイネの葉をつづり合わせたツトを作り、その葉を食害します(図6-10)。関東~西日本では、主に7月下旬~8月中旬に発生する第2世代幼虫の食害が問題になります。この時期に幼虫が1株当たり0.5~3頭いると5%減収するとされています<sup>25)</sup>。被害は、移植時期が遅い場合、飼料イネなど窒素施肥が多い場合で増加するとされています。\\ 
 +{{ :kihon:図6-10.jpg?400 |}}  
 + ②遅植えを避ける\\ 
 + 関東~西日本では、5月中旬以前に移植することで、イネツトムシによる被害を抑えることができます。一方で、移植時期が遅くなると、幼虫の発生量が増加する場合があります。5月中旬以前に移植をした場合、7月の幼虫の発生時期のイネの葉は硬くなっているため、若齢幼虫が葉に食いつきづらくなることや、生育が進んだイネには成虫があまり産卵しないこと等の理由で被害が出ないと推測されています。\\ 
 + ③微生物殺虫剤(BT水和剤)の利用\\ 
 + JAS有機認証下で利用可能なBT水和剤※(商品名:チューンアップ顆粒水和剤)の散布によってイネツトムシの被害を効果的に抑えることが可能です。希釈倍率は2,000~4,000倍、散布量は60~150L/10aとなっています。防除時期は、化学合成農薬と同様に若齢幼虫発生期ですが、中齢幼虫発生期や、さらに遅い中~老齢幼虫発生期に防除を行っても効果がみられます(図6-11)。ただし、イネツトムシは終齢幼虫になると摂食量が大幅に増加し、被害のリスクが高まることから、中齢幼虫発生期までに防除を行ってください。 
 + なお、BT水和剤は、イネアオムシ、コブノメイガにも登録があります。\\ 
 + ※有機JAS認証圃場でのBT水和剤の利用に際しては、認証機関への確認をお願いします。 
 +{{ :kihon:図6-11.jpg?560 |}}  
 + 
 +=== 5)コブノメイガ ===
  国内越冬はせず、梅雨の時期に成虫が海外から飛来します。止め葉から上位3葉の幼虫による食害が減収の原因となります。被害は葉色の濃い水田に集中するため窒素過多を避け、適正な肥培管理をします。ニカメイガでこれまでに示されてきたように、ケイカルなどのケイ酸資材を施肥することにより水稲を強健にすることで被害を軽減することも有効でしょう。また、周囲より極端に遅い作型では被害が大きくなることがありますので注意して下さい。  国内越冬はせず、梅雨の時期に成虫が海外から飛来します。止め葉から上位3葉の幼虫による食害が減収の原因となります。被害は葉色の濃い水田に集中するため窒素過多を避け、適正な肥培管理をします。ニカメイガでこれまでに示されてきたように、ケイカルなどのケイ酸資材を施肥することにより水稲を強健にすることで被害を軽減することも有効でしょう。また、周囲より極端に遅い作型では被害が大きくなることがありますので注意して下さい。
  
-=== )ウンカ類(セジロウンカ、トビイロウンカ、ヒメトビウンカ) ===+=== )ウンカ類(セジロウンカ、トビイロウンカ、ヒメトビウンカ) ===
  農薬に強くなったことで、ウンカ類による被害が近年大きくなっています。セジロウンカ(夏ウンカ)やトビイロウンカ(秋ウンカ)は国内越冬できず、梅雨の時期に中国南部から飛来します。セジロウンカの幼虫による食害が大きいと、分げつ不良が引き起こされるため収量減となります。飛来したトビイロウンカが水田内で増殖し、登熟盛期に幼虫が大量発生すると坪枯れが起こります。このような被害を防ぐためには、疎植にしたり、多肥を回避することによって水稲本来の力を引き出すことで水田内のウンカ類の増殖を抑えます。わらのすき込みなどで土壌の炭素含有率を上げ、窒素供給力を低下させることも食害を小さくするためには有効です。また、飛来時期にウンカ類が好む葉色が濃い水田にならないように、窒素肥効をゆっくり生じさせ葉色や分けつを遅れて出す栽培法(への字生育)を行うとよいでしょう。また、平成20年に海外から飛来したヒメトビウンカがもとになって、イネ縞葉枯れ病の多発生が関東以西の多くの地域で問題となっています。ヒメトビウンカは土着害虫であり国内越冬できるため、春先までに圃場の耕起や周辺のイネ科雑草を除去することにより越冬幼虫の密度を低下させます。アイガモの放飼でウンカ類の密度を抑制したという事例もあります。  農薬に強くなったことで、ウンカ類による被害が近年大きくなっています。セジロウンカ(夏ウンカ)やトビイロウンカ(秋ウンカ)は国内越冬できず、梅雨の時期に中国南部から飛来します。セジロウンカの幼虫による食害が大きいと、分げつ不良が引き起こされるため収量減となります。飛来したトビイロウンカが水田内で増殖し、登熟盛期に幼虫が大量発生すると坪枯れが起こります。このような被害を防ぐためには、疎植にしたり、多肥を回避することによって水稲本来の力を引き出すことで水田内のウンカ類の増殖を抑えます。わらのすき込みなどで土壌の炭素含有率を上げ、窒素供給力を低下させることも食害を小さくするためには有効です。また、飛来時期にウンカ類が好む葉色が濃い水田にならないように、窒素肥効をゆっくり生じさせ葉色や分けつを遅れて出す栽培法(への字生育)を行うとよいでしょう。また、平成20年に海外から飛来したヒメトビウンカがもとになって、イネ縞葉枯れ病の多発生が関東以西の多くの地域で問題となっています。ヒメトビウンカは土着害虫であり国内越冬できるため、春先までに圃場の耕起や周辺のイネ科雑草を除去することにより越冬幼虫の密度を低下させます。アイガモの放飼でウンカ類の密度を抑制したという事例もあります。
  
行 102: 行 114:
 23)Takada, T. et al. 2012. Multiple spatial scale factors affecting mired bug abundance and damage level in organic rice paddies. Biological Control 60, 169-174\\ 23)Takada, T. et al. 2012. Multiple spatial scale factors affecting mired bug abundance and damage level in organic rice paddies. Biological Control 60, 169-174\\
 24)芦澤武人 2013. イネ稲こうじ病の発生生態と今後の防除技術の開発に向けて.植物防疫67:133-136\\ 24)芦澤武人 2013. イネ稲こうじ病の発生生態と今後の防除技術の開発に向けて.植物防疫67:133-136\\
 +25)石崎摩美 2019. イチモンジセセリの発生生態と防除.植物防疫73:187-191\\
  
kihon/6.1457669524.txt.gz · 最終更新: 2016/03/11 (Fri) 13:12 by juten